家庭科のない国の手芸屋さん 2008/10/01 

九月に訪れたパリで、宝石箱のような手芸屋さんをみつけました。パッサージュと呼ばれるアーケードに、ひっそりその店はありました。世紀末といっても19世紀末ですが、鉄とガラスの古きよき時代を今に残すパッサージュを早足で歩いていた私たちを、ショーウィンドーに飾られていた小さなフクロウや小熊、豚が手招きしたのでした。

「ワアッー、おなじだ!」と、ヒロコちゃんが目を見張りました。GSのお客さまからいただいた、小さな鋳物の動物たちにそっくりな置物がそこにあるではありませんか。その横の、ほのぼのとした刺繍の本カバーに引き込まれるように私たちは、手芸屋さんのドアを押しました。帰りがけに店名をみると、『ル・ボヌール・デ・ファム』。ボヌールが幸福でデ・ファムが女性たちですから、直訳すると『女性たちの幸せ』になります。「ボンジュール」の私たちの合唱に、レジ台の脇で黙々と針を動かしていた女性がにっこり。小動物についてすかさず聞いてみると、それは針を止めるための磁石でできた動物とのこと。GSのお客さまがくださった、干支の動物とは似て非なるものでした。

以前からよく、糸と下絵のある生地がセットになった、刺繍キッドを買いました。その場合の刺繍は、クロスステッチが定番。実用のボタン屋さんとはべつで、お客さまは趣味が手芸の女性たち。そういえば小学校の家庭科の時間に、刺繍がありましたっけ。アウトラインステッチとかチェーンステッチ、フレンチ・ナッツやサテンステッチの練習用の、白い布がありました。ところでフランスには、家庭科の授業自体がありません。奥さま方のお稽古ごとも、皆無ではないまでもありません。フランス女性たちが手芸をはじめるきっかけが、無性に知りたくなりました。家庭科のない国が手芸大国なんて、面白いと思いませんか?