映画『パリ』 2009/01/15 

久しぶりに、ぞくぞくするほど面白い映画でした。読者さんからのおすすめメールに動かされ、翌日の閉店後にヒロコちゃんを誘って観てきました。もしかしたら私の知らないパリがあるのではないかしらぐらいの期待を大幅に上回り、今の私は映画『パリ』を絶賛。笑えて、泣きはありませんでしたが、近年まれなほどすばらしかったです。

なにがよかったかといって、登場人物のパーソナリティーがそのものずばりフランス人なんです。パリを描かせたら第一人者といわれる、グラビッシュ監督だけあります。重度の心臓病を患う元ダンサーの主人公は、人生の最後になにをしたらいいか悩んだ末に、アパルトマンのベランダから道を行き交う人たちを眺めることにします。ロマン・デュリス演じる主人公、病の弟をささえる子連れの姉の役をジュリエット・ビノシュ。美しい女子大生に振り回される、ソルボンヌ大学の高名な歴史学者に扮するファブリス・ルッキーニの演技力に、思わず拍手を送りたいほどでした。

物語の運びもキャストも文句なしでしたが、なんといってもさまざまな職種の人たちが見事に描き切られているではありませんか。愛想笑いが得意なわりにうそがつけない、おしゃれで働き者のパン屋の奥さん。未明のランジス中央市場で仕入れたものを、青空市場で売る魚屋さんや八百屋さん。お店の人たちとご常連が交わすひと言ひと言に、パリが凝縮。ときに旧植民地からの移民労働者の実態ありで、生活観もたっぷりです。そして大学教授や学生、雑誌関係の俗にインテリといわれる人たちを、なんともシニカルにとらえているのもパリっ子らしい。パリを知っても知らなくても、十分に楽しめる傑作ですよ。