盛り髪の元祖はヴェルサイユにあり 2009/04/01 

「おお、嘆かわしきはわが息子。なんだ、その頭は。盛り上がった髪は、なんなんだ」
「いえいえ、お父上。この髪型こそ、ヨーロッパの上流階級で大流行なのでございます。ヴェルサイユ宮殿で王様に謁見がかなった貴族たちはみな、この髪型をいたします」
「そうか、知らなんだ。それではゆっくり、長旅の話でも聞こうではないか」

ときは17世紀。ふぞろいな真珠にたとえられる、バロック趣味がヨーロッパの貴族社会に流行。その典型が、盛り髪にハイヒールでした。若者たちのとっぴなファッションに大人たちはしかめ面をしたものの、王権の絶頂期をむかえていたヴェルサイユ発とあっては文句がいえません。ところで、流行をどのようにキャッチしていたかについては、ヴェルサイユ詣がかならず組み込まれていた、名づけてグランド・ツアー。英国やドイツの裕福な家庭が師弟を、教師と従僕つきで二三年の期間でヨーロッパ歴訪の旅に送り出したのがそれでした。

若者たちはウィーンとパリをまわり、仕上げはフィレンツェやヴェネチアとローマ。フランス語が貴族社会の公用語になったとはいえ、ヨーロッパ文明の源はローマです。この時代にヨーロッパの人たちに、同じ教養と生活様式がゆきわたったわけです。もちろんそれよりだいぶ昔の、ラブレーやノストラダムスの時代から知識階級の人たちに、一生を旅で終えることへの憧れがあったわけです。各国が地つづきのヨーロッパが、こうなると羨ましいですね。最後に今回のテーマの、盛り髪でしめましょう。ヴェルサイユ宮殿の女主人たちの肖像画に、盛り髪をさがしてみました。モンテスパン夫人、マントノン夫人、ポンパドゥール夫人ではなく、ようやくマリー・アントワネットでみつかりました。