乳絞りの少女と牛乳壺 2009/05/01 

ラ・フォンテーヌ先生の寓話集のつづきが知りたいとおっしゃる読者さんのご要望にお答えして、短いお話をひとつご紹介しましょう。主人公の名前はペレットちゃん。頭にクッションをのせて、その上に牛乳壺をおいて、市場へのあぜ道を軽い足どりで歩くかわいいペレットちゃんを、ご想像ください。

「牛乳を売ってお金が入ったら、百個の卵を買い、三羽の雌鳥に抱かせましょう。ヒナを育てて売れば、豚が買えるわ。豚を太らすぐらい、糠(ぬか)があればわけないもの。大きく丸々とした豚を市場で売ってお金がたくさん入ったら、こんどは牝牛と子牛を買って育てましょう。私の子牛が牧場の羊たちにまじって、飛び跳ねる姿が目に浮かぶようだわ」

そういうとペレットちゃんは、羊や子牛になった気分であぜ道の真ん中で、ぴょんと飛び跳ねました。するとペレットちゃんの頭にのせていた牛乳壺が転がり落ち、大切な牛乳が草むらの露と消えてしまったのでした。

わが国ではこの物語を、“捕らぬ狸の皮算用”とコメントします。ところが私が尊敬するラ・フォンテーヌ先生は、そんな皮肉はおっしゃいません。泣きべそをかいている少女を先生は、こういって優しく励まします。
「賢人も愚人も、人はだれでも目をあけながら夢をみるものじゃよ。ペレットちゃんのような想像力こそ、われら人類の特権であるぞ」と。たしかに、嘆いてこぼれた牛乳が戻るわけではありません。嘆きをプラス思考にしてしまうラ・フォンテーヌ先生の発想の転換法を、私たちも見習いたいものです。