パリで観た日本の昭和 2010/02/01 

新聞のテレビ欄にあった映画のタイトルがきっかけで、あのころを思い出しました。『晩春』と『麦秋』といった小津安二郎作品でしたが、みたのは案内だけ。実際の映画についてはひたすら記憶の糸を手繰っただけで、それは懐かしい、気ままを謳歌していたころの私のパリ暮らしの日々と重なりました。

市内の中心にあるポンピドゥー・センターで数ヶ月にわたり、<日本映画フェア>が開催されたことがありました。それはそれは大々的で、200本もの邦画が上映されました。あのときのプログラムが、私の部屋の本棚のどこかにあったはずです。さっそくさがしてみますと、フランス語の原書をならべたコーナーの分厚い本に挟まれて、A5版のそれが隠れていたではありませんか。期日をみると、1997年3月19日から9月29日とありました。初日の14時30分からはじまる第一作は、木下恵介監督の『カルメン故郷に帰る』(1951年作品)でした。ラストは橋口亮輔監督の『渚のシンドバット』で、20時30分からとなっていました。上映は作年代順でも、アルファベット順でもありません。見損なっていた黒澤明監督の『羅生門』も観ましたし、成瀬巳喜男監督のセンスに感動したものです。このときに昭和の映画を、パリで観つくしたと思いました。

ところで、この<日本映画フェア>の観客たちについて思い出してみました。今ほどではありませんが、一部の人たちに日本アニメの人気が定着。当時、シネマテークがあったのは上の階ではなく、1階の奥。上映が終わり、館内に照明がついたときの観客の様子で、作品の評価が明暗を分かつわけです。照明がついて、日本人の私の存在に気づいたフランス人がとっさに、こういって微笑むのでした。「この作品について語りあいたいので、近くのカフェにご一緒しませんか?」