愛の妖精 2010/05/01 

ジョルジュ・サンドの代表作に、『愛の妖精』があります。でもここでお話するのは小説ではなく、フランスのテレビドラマ用に仕立てられたDVDについてです。親友のエモアという会社が版権を持っている『愛の妖精』のDVD鑑賞をしたあとで、私のミニ講演という企画がありました。会場は銀座三丁目で、以前は木挽町と呼ばれていたパーティー会場にもなるマンションの一室。訪れてみると偶然にも、私の母が生まれた住所のすぐ近くでした。肝心のDVDはといえば、1時間半の上映時間が短く思えるほど、予想をはるかにこえて面白かった。クライマックスで室内のそこかしこから、すすり泣きの声が聴こえるほどでしたよ。

物語をかいつまんで申しますと、主人公は愛の妖精ファデットちゃん。アニー・ジラルド扮する占いおばあさんのもとで、薬の調合などの能力を授けられて育ったものの、村はずれの廃屋で、なかば村八分になって暮らしています。ボロ布をまとっただけの、髪はぼさぼさのファデットちゃん。村人たちからコオロギと呼ばれ、存在自体が迷惑がられているはずですが、野生児の彼女がかわいすぎます。村の名家の、双子の片割れのランドリが彼女に夢中になったとしても、当然のなりゆきでしょう。おまけに背景に広がる沼や川など自然の、素晴らしいことといったら圧巻です。ロワール川の南、ベリー地方のノアンという村でサンドは著作に励み、田園小説のジャンルを確立しました。

原作では、村人に蔑まれていた垢まみれのファデットがランドリを知り、といっても手を握るくらいでしたが、自分磨きの意味で町に奉公に出るわけです。見事に淑女になったファデットが、村に戻ってくる場面がひとつの山になるのですが、DVDではちがいます。女の子が町に奉公に出て、故郷に錦を飾るなどという設定は現代社会にそぐいませんものね。ファデットが一人で奉公に行くかわりに、愛するランドリーと馬に乗って村を出ていく場面でハッピーエンド。なるほどと唸っている、ジョルジュ・サンドの顔が目に浮かびます。