今こそラ・フォンテーヌかも

2012/10/15 

昨晩、深夜にとつぜん地震でもないのに、机のわきの本棚の一角に横積みしてあった古い資料の束がズズズッと音を立ててドサッと床に落ちました。ジャンル別に雑誌や新聞の切り抜きを収めた数十のクリアファイルになんらかの力がかかり、ずれて棚から飛び出したようです。ところが面白いことに、振り向いて散乱した書類を一瞥した瞬間、なんと写真つきのラ・フォンテーヌの記事の上に目が止まったのでした。週刊誌の日付をみると2004年の1月22〜28日号で、ラ・フォンテーヌがコメディー・フランセーヌというお芝居の殿堂で上演されたときの記事でした。とっさに、これはラ・フォンテーヌさまの思し召しにちがいないと自己中な私。ラ・フォンテーヌをご存知ない方に簡単に申し上げますと、ラ・フォンテーヌというのはヴェルサイユ宮殿を造ったルイ14世とほぼ同年代の、私がもっとも敬愛し、師と仰ぐフランスの文学者です。ギリシャ時代のイソップ物語を、『ラ・フォンテーヌの寓話』として集大成。フランス人ならだれでもその詩を小学校に入ってすぐ暗唱させられるので、彼らの中には名前を聞いただけでげんなりする御仁も少なくありません。たとえば『ライオンとネズミ』とか、わが国では『アリとキリギリス』として親しまれておりますが、原文では『アリとセミ』の物語がそれです。いつものことですが、前置きが長くなってごめんなさい。それではなぜ今、ラ・フォンテーヌなのかについて、簡単にお話しましょう

私が大好きなラ・フォンテーヌさまですが、氏が集大成したイソップ物語はなかなかどうして、一筋縄ではいきません。たとえば『アリとキリギリス』の結末に、日仏のちがいつが歴然としてます。ラ・フォンテーヌさまのラストは、アリのこんなセリフで締めくくられているんですよ。物乞いするセミにむかって、「夏に働かないで歌ってばかりいたのなら、冬は踊っていればいいでしょ」と。アリのおばさんは瀕死のセミを門前ばらい。アリのおばさんの無慈悲を責めるでもなく、これがフランスだけでなく世界の常識。もしかしたら日本の非常識が世界の常識かもと、ふとそんな気がしました。