掃除機一台分の円高おまけ

2013/4/15 

為替レートと掃除機という、まったく関連性のないふたつが私の中でドッキング。まるで風が吹くと桶屋みたいな滑稽な話を、今回の円安で久しぶりに思い出しました。パリ生活の後半は、円高の恩恵に浴しました。フランスの物価高は今にはじまったことではありませんでしたが、かの地の物価上昇を軽く凌駕するほど円高が進行。パリでの私どもの暮らしは、東京の出版社から依頼される仕事の原稿料で成り立ってましたから、生活ベースはいつも円建でした。銀行口座に入金されている原稿料を生活費として、パリの東銀に送金してもらっていたわけです。外国送金の窓口は長いこと、東京銀行だけでした。そのうちシティ・バンクとかクレディ・リヨネなどでも、外人用の窓口を開設。うちは東銀だけで、とちゅうで銀行名が東京三菱になり、今もまだパリに残してある口座はThe Bank of Tokyo-Mitsubishi UFJ.LTDです。

話がそれましたが、なぜ掃除機かと申しますと、取材費をふくむ生活費を東銀に引き出しにいくたびにいつも、ふしぎなほど同じ気持ちになったものです。「今日はレートがいいから、ちょうど掃除機一台分とくしたわ」とね。なぜ掃除機だったかはある日、東銀で現金を引き出した帰りにマドレーヌ寺院の地下のDartyという家電大型店に寄ったときのことでした。そのとき買った掃除機のお値段が、1フランのちがいもなく為替レートの円高分とぴったりだったからです。以来、毎回のように「掃除機一台分」のおまけにほくほく。といってもMiele、ミーレ製の安い掃除機一台分で、80年代の後半ごろからのことでした。そうした、ちょっとうれしい記憶が刷り込まれているものですから私は、今のわが国の円安にいささか懐疑的なんです。外国生活と国内では逆の立場ではないかとお考えかもしれませんが、実態はちがいません。日本にいても、外国からの輸入品だよりの生活なのですから一緒です。わが国の基幹産業は、今も昔も製造輸出だといわれています。たしかにそうかもしれませんが、小学校の教科書に加工貿易とあった時代とは、私たちの日常がまったくちがいます。昭和のあのころ、私たち関東者が食べていた焼き魚は駿河湾か房総ものでしたが、今はカナダ産やノルウェー産がほとんど。衣類も日本製があたりまえで、中国製ではなかったはずです。アベノミクスの成功は大歓迎ですが、円安の真価をご説明いただきたいと、みなさん思いませんか?