フランス人の決まりごと

2014/10/15 

つきつめると、フランス語より英語の方がむずかしいといわれております。もちろん言語学など専門的レベルでのお話で、私たちにしてみれば中学のころからなじんでいる英語の方がとっつきやすいです。フランス語の方が簡単だとされる理由は、英語にくらべて例外が少ないからだそうです。たしかに、この世の中に例外という不測の事態がなく、規則どおりに物事が運べば、私たちの心中もさぞや穏やかなことでしょう。フランス人が生きる歓びを謳歌できる秘訣も、そのあたりにありそうです。それでは今日はここで、暮らしを楽にするフランス人の決まりごとについてお話しましょう。

つまり、絵にかいたように型にはまった光景が日々、フランス中で繰り広げられております。まず、朝食から覗いてみましょう。小さな食卓に、前夜に食べ残したバゲットか、あるいは冷凍庫に入れておいたそれを軽くあぶって、バターとコンフィチュールをたっぷり塗ったものがあります。コーヒー・マシーンの電源を入れて、子供がいたら彼らに冷蔵庫からオレンジジュースを取り出して与える。一連の作業をするのはパパの役割ですが、一家の主役はママ。軽くメイクしてスーツを着てキッチンに登場した彼女の前に、カップに半分ほどのコーヒーをパパが運びます。椅子に腰かけた彼女は右手で紙パックを取り、熱々のコーヒーに牛乳を注ぎます。なにしろフランス人は、猫舌ですからね。平日のこうした、判で押したような質素な朝食とは打って変わって、仕事から解放された週末の朝食は別格。週末、一家の主役のママは朝寝坊。パパが子供たちの手を引いて、静かにドアを閉めてパン屋さんに行きます。いつもとちがって、焼きたてのバゲットと人数分のクロワッサンを買うのはパリっ子だけでなく、待ちに待った心ときめくフランス人の週末のはじまりというわけです。昼食も平日の子供たちは保育園や幼稚園、長じて小学校の、カンチーヌとよばれる栄養満点の給食任せ。夕食もまた、例外のないメニューの繰り返し。前菜のお皿と付け合せを添えたメインと、デザートは市販のヨーグルトにフルーツや蜂蜜を混ぜるだけ。子供がいない、あるいは初老の、はたまたホモ・セクシュアルのカップルでも、平日の時計どおりの生活があるから、週末の自由さが倍うれしいものになります。金曜日の夕方、「ボン・ウィークエンド!!」と言うときだけご機嫌な彼ら。規則正しい平日あっての週末、年に一度のバカンスのために働く、……。溌剌とした自由を手にする権利のために、決まりごとを守るフランス人。いつもは眉間にシワを寄せているパリジェンヌの、週末のおおらかな笑顔。いつの間にか日本人の生活に、共通のリズムがなくなっているかも。それどころじゃないでしょう、GSを閉めるのだからという、お叱りの声が聞こえます(笑)。