diary日 記 2016 / 10 / 15

「 カサブランカ 」

人の手が届かない崖に雄々しく、そして優雅に咲き誇るカサブランカはまさに高嶺の花。太い茎がしな垂れるほどたくさん花をつけた、丈が1メートルもある見事なカサブランカを6本いただきました。花束のヴォリュームを支えられるだけの花瓶が見つからなかったので、70センチほどに切って、飾り棚の下に置いてあったシャンパンクーラーに差しました。想定内とはいえ、しばらくしましたら花の重みに耐えかねてシャンパンクーラーごとひっくり返りました。床を拭いて、新たに水を満たしたシャンパンクーラーを、こんどは窓ガラスにもたせ掛けるように置いて一件落着。食事の最中も部屋はカサブランカの濃厚な香りに包まれ、まるで別世界。明け方、香りにうなされるように目覚め、女優さんの付き人になったつもりでシャンパンクーラーごとカサブランカを外の、ベランダの真ん中に置きました。それがベストな選択だったようで、3週間を過ぎた今も無数の純白の大輪の花がつぎつぎ開き、私に笑いかけてくれるのでした。以来、何十回も観た『カサブランカ』、そしてイングリッド・バークマン(略してIB)どっぷりの日々。いくつも蕾が膨らんでおりますから、あと2週間は持つかも。華奢な印象があった高嶺の花が、あんがい逞しいことを知って、うれしくなりました。東急文化村で上映されていた、バーグマン生誕100周年の記念作品、『イングリッド・バーグマン・愛に生きた女優』が記憶に新しかったので、なおさらでした。

月並みですが私、『カサブランカ』と『誰が為に鐘は鳴る』の大ファンです。これでもかとばかりに、IBの魅力の全容が100周年のそれが見事に描き切ってくれました。愁いを秘めた、ウソっぽさがない眼差し、"君の瞳に乾杯"をBGMに名シーンの数々が蘇ります。そういえばIBって、どの映画でもメイクが薄かったですよね。行きつくところ、彼女の魅力は気取りのなさではないかしら。美貌の点では、往年のハリウッド映画に名を残すパーフェクト女優がたくさんいらっしゃる。ヴィヴィアン・リーもリタ・ヘイワースも抜群ですが、IBだけ一味ちがう。繊細に見えて骨太で、素顔の大女優のIBが、ベランダで咲き誇る頼もしいカサブランカとだぶります。この素晴らしいカサブランカを、ひとり占めしてはもったいない。桜に親しんでいる日本人は薔薇の美しさを知らないと、どなたかおっしゃってますが、ならばカサブランカはどうでしょう。栗のペーストでモンブランを作って、仲間を招いて午後のお茶を堪能しましょう。秋には秋のベランダの花を愛でて、「ボン・アプレミディ!」