diary日 記 2017 / 02 / 01

「 デカンタージュ 」

ワインをデカンタすることを、デカンタージュといいます。高級レストランで、黒服の胸に金ぶどうのバッチをつけているソムリエさんがデカンタするのは、いいワインのはずです。そもそも、ソムリエ協会公認のスタッフが待機しているレストラン自体が相当ですから。ところが実は、どんなワインでも合成酒でないかぎり、デカンタすることで2~3割は美味しくなるんです。なあんて言い切ってしまっていいかしらと思い、仲良くしているソムリエさんに聞いてみました。というのも、3月10日発売の拙著にそう書いたので確認の意味もありました。夜もまだ11時前だったので、携帯に手が伸びました。「ねえねえ、どんなワインでも、デカンタ……?」の質問にOさんは、こう答えてくれました。「はいはい、そうですよ。そうお考えになって、よろしいですよ」と。ソムリエさんにもいろいろな方がいらっしゃいますが、紳士な彼はとくに言葉遣いがごていねい。なかば恐縮しながらも、安堵のため息をつきながら、携帯を切りました。そして私は、キッチンに向かいデカンタージュの練習にとりかかりました。深夜、パリの蚤の市で形が気に入って買ったデカンタで、水遊びをしているおばさんの私、ご想像できますか?

まず、ワインの空き瓶に定位置まで水道の水を入れます。水の量については、何十年もワインを見続けているので狂いはありません。水入りボトルを傾けて、お気に入りのデカンに注ぐわけですが、だれに見られているわけでもないのに緊張したのには、われながら笑えました。お料理でもお菓子でも、どんなことでもしばらくやっていないと腕が鈍りますものね。5回ぐらいぎくしゃくして、6回目ぐらいから手の震えはおさまり、一連の流れがスピーディーになりました。そして案の定というべきか、こんどは本物の赤ワインで試したくなりました。すでにキッチンに1時間おりましたが、ワインを飲みはじめるには、早すぎました。そこで自室に戻り、PCの受信を確認。ワードを開いて、次の日までに仕上げる約束になっていたページを再読。ちゃんと仕事しているのですもの、小一時間のデカンタージュぐらい、神さまも多めに見てくださるに違いありません。PCを閉じてシャワーを浴びて、晴れやかな気分で、さてさて本番。抜栓しながら、掌中のソムリエナイフに目がいきました。そういえば以前、長く使っていたライヨーが壊れかかったとき、このデュルックが使いやすいと教えてくれたのも、他ならないOさんでしたっけ。リハーサルの甲斐あり、プロには及びませんが、一滴もこぼさず速やかにデカンタージュを終了。「どうぞ、今、書いている本がうまくいきますように」と、殊勝にも祈りながらひとり乾杯。ワインどころではなかった1月が終わり、今年も2月がはじまりました。もうすぐ春ですね、旅がしたくなりました。