diary日 記 2017 / 03 / 15

こんなに誉められたことありません

「先週、神楽坂の毘沙門天の前に出ている花屋さんにあったボケの花の枝ぶりのよさに、立ち止まって見とれておりました。花はみんな好きですが、ボケは特別。以前の私なら、迷わず買ったはずです。昨年の今ごろまで、大通りからちょっと入ったT字路の付け根の、目立つ位置にある狭小戸建てに住んでいたので、人目に付く玄関先に季節ごとの花を欠かさないようにしてました。益子焼の大きな壺に無造作に梅やボケ、山桜などを活けてました。ところがマンションに引っ越しましたので、飾るスペースがなくなりました。あきらめて花屋さんのボケの前を素通りし、そのまま坂上のスーパーでビールなどの配達を頼んだ帰りに、空身でまた花屋さんの前を通りかかってまたボケを眺めて、「アッ、そうかっ!」と閃きました。ベランダがあるじゃないかと気付いたときは、あたかも目の前の霧が晴れたようなすがすがしさでした。「わあっ、うれしい! やっぱり、そのボケをひと枝くださーい」。

直径が3㎝近くある枝を20㎝ほど、鋸で切ってもらいました。枝のボリュームがけっこう大きくて、持つと思ったよりずっしりでした。全開の花は少なく、6分咲き、5分咲きと蕾がぎっしりついていました。蕾も花も珍しいほど大粒で見事なのに、お値段は聞いたらたったの千円。「よしてよ、千円はないんじゃないのコレで。おまけしてくれなくていいから、もっと取って」と思わず口を突いて出てしまったほどでした。「だって、千円なんだもん、仕方ないじゃない」とおばちゃん。かっこつけるのもなんですから、そのまま千円札と引き換えに、めちゃめちゃ枝ぶりのいいボケを抱えて帰路につきました。するとどうでしょう、私の人生でこんなに誉められた経験はかつてありませんでした。すれ違った方々のほとんど全員が、男性までが私が抱えていたボケを愛でるではありませんか。「ワアッ、すごい!」、「あら、素敵!」、見知らぬオジサマに「キレイだね!」、「よく似合うね!」といわれても、ぜんぜん嫌味に思えなかったのが不思議です。ほんとうに絶品で、たとえようもない自然界の傑作に、私自身が惚れ惚れ。なるほど、週末に超のつく大型犬を連れて神楽坂に散歩に来る人の心境が、これだったのかと。さて、自宅に戻ってベランダに直行。枝の重さでひっくり返らないように、シャンパンクーラーにたっぷり水をいれて挿して、またまた感動。場所を得たかのようなボケのひと枝が、あっぱれなほど周りの景色になじんだではありませんか。花芯にほのかな朱鷺色をぼかした、凛として艶やかな満開のボケがガラス越しに私にこう恩着せがましく語りかけます。「これで安心してあなたは、以前のように枝ものを買えるようになって、よかったわね」と。それにしてもひと枝で、ここまで贅沢な気持ちになれるとは思いませんでした。みなさんも心贅沢を探して、キョロキョロしてくださいね。