diary日 記 2017 / 06 / 01

フランス人を虜にする『文楽』の魅力

一概には言えませんがとお断りしたうえで申しますと、日本人にくらべてフランス人は難易度が高いものやことに意義を見出す人たちなんです。私たち日本人に違和感なく受け入れられている算数の100回ドリルをフランス人の子供にさせようものなら、最後の1問ができれば、それでいいじゃないかと居直られる始末。これは成績のいい子に顕著で、100回も同じことの繰り返しはまっぴら、「馬鹿にしないでよ」と言われることでしょう。あるいは、「100問の中の、一番難しいのができればいいんでしょ」という具合になります。それでは、彼らが好きな『生きる歓び』という言葉に反するではないかとお感じかもしれませんが、同じです。今回のフランスの新大統領に就任したマクロン氏がそのいい例で、15歳にして友人たちから「スゴイ奴」と一目置かれ、彼らの期待を裏切らなかった。25歳年上で家族持ちのブリジットと出会うと、教師と学生の垣根を飛び越えて、禁断の恋に走った。だからこそ彼の闘志がわいて、その勢いで大統領になった。恋愛も学問も仕事も、苦渋と背中合わせの快楽に痺れ、イージーは敵。洗練された文化や芸術をかぎ分ける彼らのセンスからして、難易度の高さに惚れ込む彼らのDNAのたまものですね。並みのものでは飽き足らない彼らのエリート根性が鼻につかなくもありませんが、彼らの審美眼は端倪すべからず。そんなひと癖もふた癖もあるエリートたちは、日本の伝統芸能がお好き。とりわけ彼らが絶賛するのが、意外や『文楽』なんです。

「KABUKIも面白いですが、日本のアートではマリオネットのBUNRAKUが最高です。なぜかと言うとKABUKIは、役者自身が動いて声を出して物語を演じますよね。ところがBUNRAKUは、物語を歌う人(義太夫)と奏でる人(三味線)から離れたところで、マリオネットが動くんですよ。それも3人がかりで着物のマリオネットを操り、物語ににじみ出る悲しみや歓びを全身で表現するのですから絶対です。その意味でBUNRAKUは、世界一難しいマリオネットです」と、親友のフィリップは言い切ります。たしかに人形浄瑠璃の『文楽』に私も、ずるずるとその深みに手招きされているようです。先日、国立劇場で桐竹勘十郎さんのお人形に、達人の域を実感。暗い舞台に浮き上がるお人形をとおして、「秘すれば花、秘せねば花なるべからずとなり」と言う世阿弥の声を聴いた気がしました。白状しますと私、小麦粉を捏ねるのと同じぐらいお人形が好き。暗い観客席の隅でひとり、正々堂々と難易度の高い人生に挑戦しましょうと決意。あれあれ、ブリジットさんと同じ歳だからと言って、それはないでしょう(笑)。