diary日 記 2017 / 08 / 01

フランスは地方が元気

古くから、「パリはフランスではない」と言われてる意味を、最近になって「なるほど」と納得。神楽坂でジョルジュ・サンドという焼き菓子屋をやっていた8年間は、フランスを訪れて立ち寄るのは、パリとその周辺だけでした。ところが2年半前に店を閉めてからは、旅の目的がいつの間にか、地方行脚になりました。羽田発の深夜便で未明の5時前後にパリのシャルル・ド・ゴール空港(略してCDG)に到着。そのまま、予約しておいたホテルに直行。チェックインはできませんがトランクを預け、フロント係りに「今晩、戻ってくるから」と言い残してその足で地方へ。まずは列車が発着するパリ中心部のSNCF、国鉄の駅に急ぎます。わが国も、地方ごとに発着駅が決まっていました。東北は上野、信州でも松本は新宿で、山陽・山陰本線と東海道本線は東京でしたよね。新幹線が充実し、品川、東京、上野を通過するようになって便利になりましたが、かつて、それぞれの駅に漂っていた地方色が希薄になっていませんか? 以前、それがつまらないと申しましたら、「地方色なんていらない!格差はない方がいいから」と断言した方がいらっしゃいました。「ふるさとの 訛懐かし…」と詠んだ啄木にロマンを求めるのは、今は幻想のようです。でもです寺山修司さんは、東京では生れなかった鬼才だと私は信じます。

パリのモンパルナス駅の周辺に、ブルターニュ地方出身の人たちが開いたクレープ屋があります。フランス第3の都市リヨン、第2の都市マルセイユやニースなど、プロヴァンスに南下する列車が発着するパリのリヨン駅には、他駅にないほど豪華な「トラン・ブルー」というレストランがあるんです。セーヌ河口の一帯に広がるノルマンディー地方へは、印象派の画家たちがほろ酔い気分で動き出す列車に飛び乗ったサン・ラザール駅から行きます。アルザスやメッツなど、質実剛健な地方とつながる東駅には、リヨン駅のはなやいだ雰囲気はありません。CDG空港を経由するTGVもありますが、パリのターミナル駅には、わが国で消失した「上野発の夜行列車着いたときから……」の世界が健在なんです。そんなこんなで、ここ当分、地方にはまってみようと思う私の目論見の奥に、「フランスの地方がなぜ元気?」があります。東京ばかりが目立ち、駅を降りるとシャッター通りばかりのわが国とのちがいって、いったいなんなんでしょうか。国会や大統領府はパリに行政の中枢が集中しておりますが、それはあくまでも便宜上のこと。フランスの地方パワーの源泉は……、とどのつまりは愛かもね。