diary日 記 2017 / 11 / 15

またまたタルト・タタンの季節

タルト・タタンは裏返したリンゴのパイです。名称からして可愛い、このお菓子の生誕は19世紀後半。パリから171㌔、オルレアンから36㌔地点にあるロワール地方の、ラモット・ブーヴロン村でのことでした。フランスの名物菓子の起源をひもといておりますと、正確に由緒がたどれるものにたまに出会えます。そのひとつがタルト・タタンで、そこかしこに果樹園があり、森と泉に囲まれた村の街道筋にあったホテル・タタンの厨房が発祥の地。ラヴレーの『ガルガンチュア物語』やバルザックの『谷間の百合』の舞台になり、古くからフランスの庭と呼ばれるほど穏やかで、美しい町や村が点在する地方です。またホテル・タタンは、レストランのお料理が美味しいことも評判でした。経営はタタン姉妹の父親でしたが、厨房はステファニーとカロリーヌの姉妹で切り盛り。ランチタイムはあっという間に満席になり、厨房はまさに戦場。そんなある日、ちょっとしたアクシデントがホテルの調理場で起きてしまったのでした。デザートのタルトを仕込んでいたステファニーが突然、こう叫びました。「しまった、大失敗をやらかしちゃった!リンゴのタルトを作るつもりだったのに、パイ皿に生地を敷かないでリンゴを並べてしまったわ、どうしようかしら」と。客席と厨房を行き来していた給仕担当のカロリーヌがそれを聞いて、咄嗟にこう言ってのけたのでした。「大丈夫よ。敷きそこなったパイ生地をリンゴの上にかぶせて焼いて、お客さまに出すとき裏返せば生地が下になるから」で一件落着。カロリーヌが客席に運んだ、飴色したシナモン香る熱々のリンゴタルトを一口頬張っただれもが、驚きの拍手喝采。のちにフランスの国民的なお菓子になった、タルト・タタン誕生の瞬間でした。おっちょこちょいで知られたタタン姉妹ならではの、怪我の功名というわけです。それでは私たちも、タルト・タタンに挑戦してみましょう。ご用意いただくのはリンゴと冷凍パイ生地。バター少々とシナモンパウダー、お砂糖。パイ皿がなかったら、代わりに耐熱皿をお願いします。リンゴの品種は問いませんが、紅玉よりふじの方がボリューミーでいいです。

生のリンゴをパイ皿に敷き詰め、バターとお砂糖を振りかけて、パイ生地で覆ってオーブンで焼くのが正統なレシピです。ところが料理も製菓も手抜きが信条の私は大幅に時間が短縮できるので、煮て飴色になったリンゴにシナモンを振りかけます。パイ皿に柔らかくなったリンゴをお行儀よく並べ、その上にパイ生地を被せてオーブンに入れ色よく焼けたらできあがり。フランスに名物菓子は数々ありますが、これはシンプル・イズ・ベストの5本指に入る銘菓ですから、ぜひ、お試しください。