diary日 記 2017 / 12 / 01

食はアイデンティティーだから?

フランス料理と中華料理とレバノン料理とイタリア料理とブラジル料理と、そうそうアルジェリアやモロッコなど、フランスの旧植民地マグレブの料理と、もちろん和食も作ります。それに東京の繁華街には、メキシコ料理店もポルトガル料理店も、美味しいベトナム料理店もあります。副都心線が開通したおかげで、埼玉方面から横浜の中華街まで乗り換えなしの一本で行けるようになりました。お料理を食べるのは好きですが、作るのはもっと好き。外国の町で食したり、国内のレストランの場合もありますが、美味しい料理との出会いはとても刺激的なもの。なんといっても「食文化」という言葉があるように、料理はだんぜん文化を背景にしてますよ。「不倫は文化だ!」とおっしゃった御仁がいらっしゃいますが、文化になった不倫なんて、魅力ありませんよね。食の場合の文化には、食材の産地の地理や気候や風俗などの一切合切が含まれるわけです。その意味で私は、新たなる食との出会いを求めて、日々、興奮状態。出会いは食についてだけではもちろんなく、人との出会い、本との出会いなど、さまざまな出会いも同じで、「うれしいっ!」とか「よかった!」とか「ほんと、面白いわ!」が口を突いて出れば、それで人生いいような気がしている今日、この頃です。食についての私の意見に同調してくださる方は、少なくないと思います。ところがですよ、パリの私の知人のほとんどは、炒飯を作る私を訝しげに見るんですよ。ちなみに炒飯はフランス語で、リ・カントネ。リはライスのことでお米、カントネは広東のという意味です。

リ・カントネ、つまり炒飯はほとんどのフランス人の大好物なんです。彼らが大好きなリ・カントネは作るのがとくに簡単で、ご飯と卵とハムと冷凍のグリーンピースがあればいいんです。味付けは顆粒状のコンソメか、なかったらお塩だけでもOK。ですからパリ時代からの習慣で私は、今でも冷凍グリーンピースを欠かしません。これについては食べ手にユダヤ系の方がいらしたら、ハムは冷凍庫に常備しているむきエビで代用。豚肉を牛肉だと嘘をつくのは簡単ですが、豚肉を食べたユダヤちゃんに禁を犯させるわけにはいきませんからね。リ・カントネを作るときは、もちろん他に中華のお惣菜も用意します。なんでもいいんですが、お野菜でもお肉でもニンニクと生姜を少し入れて、炒めてとろみをつけてお皿に盛れば、中華になりますから。ところが、テーブルを囲んで美味しく食べている人の中の誰かが、お決まりのように私にこう問うんです、「ヨーコ、日本人じゃなかったっけ?」と。そして、またもうひとりが、「ヨーコ、なぜ中国料理を作るの?」と。不思議そうな顔しながらも、突然やって来てもリ・カントネと中華の一品が出てくるのがわかってますから、おまけにデザートもつきますし、彼らは満足して帰っていくんです。そして、帰りがけに彼らは、私にこう言い残すんです。「ヨーコ、こんどはフランス料理を作って私たちを呼んでね」と。たしかにフランスでは素人の場合、プロヴァンス生まれの人はアルザス料理を作らないかも。食べ物ネタが続いたので、今年最後の次回は他を考えます。