diary日 記 2019 / 10 / 01

コンシェルジュはフランス語

受付があって制服姿のコンシェルジュがいるだけで、そのマンションに高級感が漂います。以前は日本橋の三越か高島屋ではあるまいしと思ったものですが、今ではまったく違和感がありません。それどころか彼女たちの有無で、マンションの価値が左右されるといっても過言ではないかも。「それは困った、うちのマンションに作業服の管理人さんはいても制服のコンシェルジュはいないから。次の理事会に出席して、うちのマンションにもコンシェルジュを置いてもらうように提案してみようかな」とお考えでしたら、ぜひ、実行なさってください。ただし彼女たちは、管理人さんみたいにお掃除やゴミ出しはしてくれませんからね。そもそもコンシェルジュという言葉はフランス語で、私の手元の『白水社』の辞典によりますと名詞で、門番、門衛、受付、牢番。彼女たちから受ける、エレガントな印象とちょっとちがうかも。それでも、コンシェルジュという言葉が女性の職業として、まちがいなく定着。ツケマ2段のギャルではなくて、落ち着いた雰囲気の機知に富んだ中年女性あたりが適任。用事がなければ近づけないマンションのコンシェルジュは、ますます気になる存在になりそうですね。それになんといっても、ガードマンやポーターとちがって、コンシェルジュという言葉の響きがいいじゃありませんか。ところが私はコンシェルジュと聞くと、『ムッシユ・クラン』というアラン・ドロンの主演映画を思い出します。今、PCで検索してみましたら、日本では上映されてないみたい。天下の二枚目、アラン・ドロンの作品の中で出色のできだと思うのに、受けそうもなかったのかしら。

『ムッシュ・クラン』のあらすじをざっくり申しますと、時代背景は第二次世界大戦下のパリです。ブルジョワが住むというとみなさんは16区とお思いかもしれませんが、外国人が少ないお隣の17区が正真正銘。話が飛びますが、『失われた時を求めて』というタイトルだけが有名で難解すぎて読んだ人がほとんどいないことで知られる、マルセル・プルースト一家が住んでいたのも17区です。その17区でリッチに普通に暮らしていたフランス人のアラン・ドロン扮するムッシュ・クランが信じがたいことにユダヤ人とまちがわれてナチスに囚われ、果てはアウシュビッツに送られてしまうというゾゾゾの物語です。そもそものきっかけはコンシェルジュの密告ですが、裏に陰謀も思惑もない一方で抗いようのない不条理にドロン愕然。「まさかユダヤじゃない自分が…」と唖然とする言葉少ななドロンに演技がキラリ。ハンサムなだけじゃないドロンの魅力全開、実にいい映画でした。パリ17区のコンシェルジュといったら、パリ子たちの多くは口を一文字にむすんでニコリともしないことでしょう、ただしお年寄りにかぎりますが。シリアスさとは無縁の、東京の優しいコンシェルジュさんがいいですね。