diary日 記 2019 / 11 / 01

『Fukushima50』、泣けました。

「え、あんたが泣いたの?」とお疑いになるかもしれませんが、まったく涙もろくない私が泣いたんですから相当です。『沈まぬ太陽』でアカデミー賞をとった若松節朗監督に今作から、“泣かせる監督”の冠詞がつくのではないでしょうか。原作は熱血漢で知られるノンフィクション作家の門田隆将さんの『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)。福島に親友がいるので原発関連の本を見つけると読んでおりますが、本著の主人公は吉田昌郎さん。生前、原発事故の直後からニュースによく出ていらしたので、リアリティーをもって拝読いたしました。その映画化なので、なおさら涙など予想だにしないことでした。暗い試写室のそこかしこで涙が流れる音が聞こえ、あっという間に2時間が経過。室内が明るくなり、終了のご挨拶もないまま離席する方々の表情に、神妙な満足感が漂っていたと思ったのは穿ちすぎでしょうか。「そうか、みんな泣きたいんだ」と、書きかけの小説をほっぽらかして南仏に出かけていた私は、自作の泣かせどころをより深くと心に刻んで会場を後にいたしました。それでは以下、ネタバレにならないように、観てきたばかりの『Fukushima50』についてお話しましょう。公開は来年の3月と先ですが、見損なわないように今からマークしておいてくださいね。

原作の主人公、吉田昌郎さん役の渡辺謙さんは映画では、主役の座をわずかに佐藤浩市さんに譲ります。単純にいって、「福島第一原発事故」をリアルに語った原作を忠実に映像化するとともに、原発内部に残った50人に焦点を移して映画『Fukushima50』が見事に完成。現地作業員代表の佐藤浩市さんの周りを、吉岡秀隆さん、緒方直人さん、火野正平さんや荻原聖人さんといった芸達者たちが囲みます。そうそう、安田成美さんも熱演でした。2011年3月11日の記憶が当事者たち以外の意識から遠のきつつある今、経過した時間とはまったく別の視点で福島を描き、後世に語り切ったことがこの作品の真価にちがいありません。50人の男たちに、命を賭してまで作業を敢行させたものはなんだったのか。仕事への忠誠心か、生まれ故郷へのこだわりか。伊崎主任役の佐藤浩市さんへの義侠心と愛する家族への思慕の板挟みになりながら、血みどろになって耐えた男たちの思いを布石にして、原発の悲劇を今につなげた監督の手腕に頭が下がります。そうか、若松監督が以前の作品で、矜持という言葉を使っていらしたことを思い出します。近年に珍し正統派作品でした、★★★★★。それでは、次回の南仏紀行もよろしくね。