diary日 記 2020 / 09 / 15

ブリア=サヴァランってどんな人?

「アレでしょう、アレ。ブリオッシュをラム酒に浸して柔らかくした、サヴァランというお菓子の名前になっている人でしょう」とおっしゃったとしたらご正解。さらにブリア=サヴァランの名著、『美味礼賛』を上げてくださった方は◎。イタリア寄りの山岳地帯、サヴォア地方の裕福な家庭に生まれ育った彼は、味覚は三代といわれる通りの美食家でしたが本業は別にあります。親の代からの法律家で、出身地で市長を務めた政治家でもありました。1755年生まれでフランス革命のさ中、自分の名前が処刑リストに載っていて指名手配されていることを知り、急遽、アメリカに亡命。フランス革命というと三部会がかならず出てきますが、サヴァランの所属は第三身分でした。革命の牽引役になった「三部会」で彼は、死刑の必要性について熱弁をふるって一躍有名になります。せっかくですから革命下における「三部会」のご説明を、簡単にしておきましょう。第一身分は聖職者で、第二身分は貴族。それでは第三身分は最下層なのかといえばまったく「ノー」で、貴族ではない有産階級が第三身分の構成者です。革命の後半にパワーを発揮する無産者階級の一般庶民は、第三身分には属してません。そんなわけで、お育ちがいいブリア=サヴァランはれっきとした第三身分だったわけです。アメリカに渡ってサヴァランはなにをしていたかといいますと、子供のころから習っていたバイオリンの才能が買われてN.Y.パーク・シアターのコンサートで第一バイオリンをつとめたり、フランス語の先生をして3年ほど滞在。そうこうするうちにナポレオンの台頭で、フランス革命に終止符が打たれたので帰国。戻ってからは終身、司法官という恵まれた地位に就任します。時まさに王侯貴族たちが抱えていた、腕っこき料理人やお菓子職人たちが町に流れました。パリ市内に際立ったレストランやパティスリーが、次々に開店。有名店のそこかしこで舌鼓を打つ、ブリア=サヴァランの姿が想像できますね。冒頭に書きましたサヴァランというお菓子名についてはオーギュスト・ジュリアンという人気パティシエさんが美食評論家としてのブリア=サヴァランに敬意を表して、それまでババと呼ばれていた地方菓子を改良して彼の名前を付けました。

グルメの必読書、『美味礼賛』が出版されたのが、著者のブリア=サヴァランが亡くなる2か月前というのがすごいですね。生涯独身で、女性への思慕を第六感に高めていたか貶めていたかについては、私の勉強不足を認めます。でもたぶん、ピピピッとインスピレーションが湧いた女性とお食事をしていらしたのではないかしら。時代背景にバルザックやゾラの小説に描かれている光景を重ねると、そんな気がします。『美味礼賛』で興味深かったのが、ブリア=サヴァランが炭水化物が太り源だと断言している点でした。この時代、人々の摂取エネルギーのほとんどがパンや穀物、お砂糖ですから画期的ではないでしょうか。オオカミやジャッカルなど、肉食動物は太らないというのも説得力がありますね。「あなたがいつも食べているものを教えてほしい。そうすれば私は、あなたがどんな人か当ててみせましょう」というセリフ、発したお相手はきっと女性。手相、姓名判断、血液型もそうですが、ブリア=サヴァランならではの食べ物判断も、あまたの女性を魅了したことでしょう。ブリア=サヴァランに学ぶ口説きのテクニックも面白いかもね。