diary日 記 2021 / 05 / 15

「犬を連れた奥さん」がふえました

「コロナ禍になって心がすさんでいたとき、ペット・ショップの前を通りかかってつい手が出ちゃいました。2週間後なら、半値だったんですけど今が可愛くて」とは初耳でしたが、常識とか。小さなものがかわいいのは、清少納言の時代も今も同じ。コロナとの長期戦を覚悟して、ついに飼いはじめた方もいらっしゃいます。大型犬は飼うのに決心がいりますが、小型犬なら衝動飼いもありかも。生き物が死ぬことに臆病な私は、金魚は見るのも怖いです。食肉コーナーに並んだ丸鶏や魚はいくらでもさばけるのに、金魚がダメなんておかしいですよね。完全夜型の私には無理ですが、犬を飼っている友人と散歩するのは大好き。当てのない散歩は苦手でも、引っ張られて歩くのって、心身を犬にゆだねているからなのか心地いいですよね。いつもはせっかちな私ですが、犬の散歩に付き合うときは別人になれます。犬の散歩といえば、チェーホフの『犬を連れた奥さん』ですよね。お読みになった方も多いかと存じますが、1899年に発表するや話題作に。男女のW不倫の短編ですが、ふたりの情動が超リアル。なぜ、こんなに印象に残るのかと思って、今でもたまに手に取ってしまうほどですが翻訳がいいのかも。それにハンサムな銀行家のグーロフとスピッツを連れた初心な人妻のアンナの出会いの場所が黒海のリゾート地、クリミア半島のヤルタだった点に、はじめは興味が湧きました。1899年といえばロシア革命の前ですから、ロマノフ王朝下。特権階級は当時、モスクワを離れて気候のいい黒海のヤルタで休暇を愉しんでいたわけですね。ちなみに第二次世界大戦の後処理を画策した<ヤルタ会議>のメンバーは英国のチャーチル、アメリカのF・ルーズベルトとスターリンでした。

『犬を連れた奥さん』の時代、フランスでもヴァカンスの習慣がはじまります。1900年のパリ万博と時を同じくして赤表紙のガイドブックの『ミシュラン』が誕生。『犬を連れた奥さん』の主人公たちは鉄道で移動ですが、『ミシュラン』は自動車運転者向けに創刊。なんと35,000部が無料配布されてますから、快挙ですよね。もともとミシュラン社は老舗タイヤメーカーですから、自社製品の宣伝のために制作。当時、自動車を持っているのは相当なセレブですから、プロパガンダ上手のフランス人の面目躍如。いつものように話が逸れて、ごめんなさい。『犬を連れた奥さん』に戻しましょう。フランスのヴァカンスは初期のころから家族や恋人たちと旅立ちましたが、主人公のグーロフたちは男性ばかりなので退屈の極み。プーチン大統領からも想像できますが、リゾート地にモスクワの富裕メンズが屯して町ゆく女性を品定め。よく手入れされたスピッツを連れた若くて可愛い人妻のアンナが、やたらと目立ちます。悪戯心でアンナに近づいたグーロフにしてみれば、ひと夏のできごとのはずでしたが目算が狂います。映画でグーロフ演ずるアレクセイ・パターロフという俳優がまた、繊細なジェラール・フィリップと野蛮なアラン・ドロンを足して二で割ったような美男子。離別からの苦しみの果てに物語は不倫成就とはいえ、ハッピー・エンドの雰囲気が漂うわけではないのが名作リストに載るゆえんかも。軽薄なのにズシッと重い、短編小説の手法が際立ちます。わが国のワンワン・コミュニケーションからも、あんがいロマンスが生まれてたりして。プロフィールに私に直につながるアドレスがありますから、面白ネタがあったら教えてください。気をつけましょう、ワクチンまでは!!!!!