diary日 記 2022 / 06 / 01

食前のひと口 アミューズ・ブーシュ

自宅キッチンのリフォーム完成を前に、早くもお客さま料理のメニューをあれこれ思い浮かべております。オードブルの前にお出しする突き出し、アミューズ・ブーシュ amuse boucheのバリエーションに凝ってます。本場、フランスの星付きレストランにご一緒したおつもりになって、情景をお楽しみください。まず、予約してあるレストランに到着。黒服のギャルソンか仕立てのいいスーツを着た、メートルと呼ばれる支配人に導かれてお席に。美しく装った女性を伴われたカップルが、いい席に通されるのは常識です。フランスの有名レストランやホテルは京都の老舗料亭とちがい、一見さんお断りの習慣はありませんし、肩書は通用しません。受付に待機しているスタッフが訪れ来たお客さまを瞬時に品定めして、しかるべきお席に誘導。お誕生日や結婚記念日などの晴れの日のために早くからご予約くださったお客さまに、最高のお料理とサービスでご満足いただくために、店内の雰囲気づくりは肝心です。目立つお席に素敵なお客さまをご案内して当然です。料理ではなく接客業を志す者にとって、お客さまの品定めも修行のうちです。エルメスやヴィトン、ジバンシーやシャネルなど世界のブランド品のメゾンがパリに集中しているのも、必然性があるわけですね。フランスにくらべたら、見た目で値踏みされないわが国は気楽です。またまた話が逸れましたが、お席に着いてギャルソンに渡されたメニューを眺め、シェフがあらかじめ用意したコース料理か、それともア・ラ・カルトにしようか悩んでいるタイミングで、小皿にのったアミューズが運ばれてきます。手元のカトラリーは使わず、小皿に小さなフォークかスプーンが添えられてあります。注文するお料理にかかわらずアミューズ・ブーシュには料金が発生しませんが、大切なお食事の最初の一品でシェフの力量が伝わります。もちろん、注文するお料理とかぶることは絶対にありません。最近、わが国のレストランでアミューズを出すところがふえましたが、揚げたフリットやパイ生地ベースなど、重ためが多いのがやや残念。それではこれから、ご自宅で簡単に作れるアミューズにトライしましょう。ちょっとおしゃれなおつまみとご解釈ください。

アミューズのネタを考えていると、70年中頃から80年代のほんの一時でしたが一世を風靡したヌーベル・キュイジンヌを思い出します。ポール・ボキュースやトワグロといったフレンチのカリスマたちが、こぞって若くて優秀な日本人コックさんを厚遇した良き時代でもありました。材料の持ち味を生かした、繊細で印象的な小皿料理の最大のルーツは和食で、日本人コックさんの十八番でした。当時、シベリヤ鉄道でパリを目指したシェフたちの武勇伝は、いつ聞いても身震いするほど面白いです。彼らの話になると長くなるので、アミューズの中身に移りましょう。和食の素材をフレンチ風にアレンジし、和菓子をまねて小皿の上で遊ぶという妙案を思いつきました。デパ地下の和菓子コーナーをヒントに、大納言をサーモンにすり替えてみました。ゼラチンと寒天を半々に使い、サーモンとディルを水羊羹が入っていたプラスチック容器で固めましょう。3㌢角に薄くカットしたコンテを茹でたほうれん草で巻いて、カットして並べたお皿にバルサミコ。松山名物の坊ちゃん団子よろしく、黒と緑のオリーブの間に茹でてサフランで染めた紋甲イカを刺しましょう。冷蔵庫にあるモノだけで作るあなたのアミューズ、お試しください。